真っ暗な部屋はきらい。 (だから、屋敷中の灯りは消さないで。)

大きな部屋はきらい。 (だから、大きな家具ばかり敷き詰めて。)

ひとりはきらい。 (だから、)



















しん、と静まり返った部屋を見渡す。

夜中に彼を呼びつけるのなんて、いつものこと。

迷わずサイドテーブルにちょこん、と置かれたベルを鳴らす。





「…なんで、来ないのよ…。」







開くはずであろう扉をじっと見つめて、そう呟いた。

その声は何も言わない部屋に、沈んでいく。









ベッドから抜け出し、行く当てもなくただ屋敷を歩く。

歩いてもあるいても先が見えない。なんて大きい家だ、と我ながら実感する。

歩きつかれたわたしは、庭に出て夜空を仰いだ。















「勝手に歩き回っちゃ困るで。」









気配もなく現れるのは、執事であるギンの得意技だ。



月にもよく似た銀色の髪、

切れ長で全てを見透かすような瞳、

彼には似合わない窮屈そうな燕尾服。



寝ていたのだろうか、裾からワイシャツがだらしなくのびている。

横目で姿を確認したわたしは、少し肩を震わせ言った。









「ギンが、来ないからよ。」



「そら失礼しました。」









悪びれた様子もなくケタケタと笑う。

彼はわたしの手をとり、「戻ろ。」と引っ張る。









「…ギンは、月にとても似ている。」



「何言うてんの。」









手を伸ばせば触れられそうな距離にいると思って、

手を伸ばすとその距離の遠さに涙が出る。

こんなにも明るく、わたしを照らしてくれているのに。











「ギンだけは、わたしのそばにいてくれる?」



「…。」



「お願い、そばにいるって…言って?」



が願うなら、居ってもええよ。」











何もいらない、なんてうそ。

執事に恋をしたなんて誰にもいえない。

だから、ただそばにいてくれるだけでいいの。















「冷えたらあかんから、戻るで。」







繋いだ手があまりにも優しくて、また泣きたくなる。

そしてもう一度夜空を仰ぐと、浮かぶ月が笑った気がした。

















ひとりはきらい。 (だから、すぐに来て。)

ひとりはきらい。 (だから、ずっとそばにいて。)

ひとりはきらい。 (だけど、たまに)















「好き」と叫んで



(For*project butler  H20.12.28)