貴女のように純粋な心が持てたなら。
貴女のように人を愛する心を持てたなら。
貴女のように自分に素直になる心を持てたなら。
俺はきっと貴女を泣かせるような男にはならなかったはず。
君の色に染まる
(自分という男が貴女を傷付けるのなら貴女という女のために死んでみたい)
「お嬢様、お散歩にでも行きやせんか?」
「お散歩に?」
「今日は曇ってて鬱陶しい天気でさぁ、どうです?」
「普通は天気の良い日にお散歩をするのでは・・・?」
それぐらい分かってらぁ・・・
でも、こんな日だからこそあんたが楽なんだろ?
天気が良過ぎりゃぁ、陽に当たって熱を出す。
雨が降ってりゃ雨に濡れて熱を出す。
それならこんな鬱陶しい日に散歩すりゃぁ
あんたはきっと熱を出したりはしないって事じゃねぇか・・・
「いいんでさぁ、曇ってる方が眩しくねぇし・・・」
「あ、そっか・・・ そうでしたね」
「・・・・・」
「沖田さんはお日様の光に敏感でしたものね」
別に・・・ 別に敏感なんかじゃねぇ。
ただ、あんたが天気のいい日に散歩したがるのを断る言訳だ。
俺無しじゃぁどこにも行かないあんたへの言訳だ。
俺がそう言えばあんたは気を使って散歩に行くのを諦めるから。
「どうです? 行きますかぃ?」
「行って見ましょうか」
そう言って微笑むあんたはきっと俺を子供みたいに思ってんだろうけど。
本当は俺なりにあんたを守ってるつもりなんでぃ、俺は。
ちっちゃな時から病弱で。
まともに友達なんかも作れない生き方をしてきたあんた。
きっと寂しいだろうにそんな愚痴は一回も漏らした事がねぇ。
俺がちょっとした理由でバイトがてらにあんたの執事になってから
あんたの周りにいるのは俺一人。
家族のみんなからは壊れ物を扱うように扱われ。
一度も羽目を外した事がないあんた。
そんなあんたが支えにするように握る俺の手は汚れてる。
真選組とはいえ人を傷付け殺す事もある。
そんな俺の手を・・・ あんたは支えにしてるんでぃ。
色白の細いその指が弱弱しく俺の手を握り
長い髪の毛がさらさらと風に踊り
ほんのちょっとした事を喜べるあんた・・・
「沖田さん、見て」
「なんですかぃ?」
「あれは飛行機雲じゃないかしら?」
「そうですが・・・」
「こうして見る飛行機雲はあんなに続くんですね・・・」
「あぁ・・・」
そうだった。あんたが見る飛行機雲は
窓という決まった枠の中だけに存在してるんだっけ。
青い空の中に一筋だけ輝くように伸びる飛行機雲。
そんなものさえに喜びを感じるあんたの小さな世界。
「どうしやした?」
「ううん、別に」
苦しそうに息をしてる。
外にいる時間がいつもより長いせいか?
「そろそろ戻りやすかぃ?」
「もう少しだけ新鮮な空気を吸っていたいわ」
「その新鮮な空気があんたを苦しめてんじゃないんですかぃ?」
「皮肉な事にそうなんだけど・・・」
何故、笑っていられる。
「でも・・・ 私は少しでも沖田さんの世界に近くなりたいから」
「何言ってんでぃ・・・」
「こうして外に出るだけで沖田さんの世界に近くなった気がするの」
「馬鹿な事を言ってねぇで・・・」
「これ以上は近くなれないなら・・・ もう少しこうしていたいの」
「・・・・・」
あんたに俺の世界は似合わねぇ・・・
人が傷付き殺される世界。
飛行機雲なんてあって当たり前のもの。
あんたみたいな人が絶対に生きてはいけやしない世界。
「もう部屋に戻りますぜぃ」
「沖田さん・・・」
そう俺を引き止めるように俺の手を強く握る。
あんたを・・・ 自分の感情のままに・・・
もし俺があんたを抱き締めればあんたはきっとここで壊れちまう。
「あんたの健康は俺の責任なんでさぁ」
「分かってます・・・」
「じゃぁ、そう我侭言わずに部屋の中に戻ってくだせぇ」
「我侭・・・ ですか・・・?」
我侭なんかじゃねぇでさぁ。
俺だってあんたをこのまま思うようにさせてやりてぇ。
でも、そうする事はあんたを殺しかねないのは事実なんでぃ。
「私が・・・ 沖田さんにもっと近くなりたいと思うのは我侭ですか?」
「あんたには無理でさぁ・・・」
「私には理解できない世界だと・・・?」
「そうじゃねぇ」
「では・・・」
「あんたみたいな女は俺の世界じゃ生きていけねぇだけだ」
あんたがこの世界の穢れを知ってしまえば。
あんたがこの世界の歪を見てしまえば。
あんたはこんな世界など知らなければ良かったと心を痛めちまう。
世界のために涙を流して魂を削っちまう事になるんでさぁ。
俺は・・・ あんたにそんな事をさせたくねぇ、それだけだ。
こうしてあんたを守ろうとしてんのに
俺は結局あんたを傷付けちまってる。
あんたにその大粒の涙を流させてしまってる。
俺はただ、あんたを守ろうとしてるだけなのに。
出来る事ならば俺があんたの世界だけに存在していたい。
あんたの穢れを知らないこの世界に。
あんたの色に・・・ 染まってみてぇ。
written by 心