やはり・・・
思った通りお嬢様はまだ寝ていらっしゃる。
こんなにも晴天で気持ちの良い日だと言うのに。
それにしてもいつもよりお嬢様の部屋が暗い気がする・・・
お嬢様の部屋は普通以上に窓からの日差しが塞がれているため
ただ部屋の中に入っただけでは薄暗い。
だから私が毎朝、最初にする事は部屋に入り
お嬢様のベッドの足元を通り過ぎてドアとは反対側にある
窓に掛かったカーテンに手をかけ、それを一気に開ける事。
でも・・・ なぜだ・・・
いつもなら日差しが入りお嬢様がもぞもぞと布団にもぐられる。
それを揺するように起こすのが私の毎朝の事なのに・・・
それなのに・・・
それなのになぜ日差しが入って来ない・・・?!
「お・・・ お嬢様・・・?」
声をかけたぐらいじゃ起きるとは思っていない。
それぐらいで起きてくれるなら毎朝の苦労もない。
とりあえず、かすかに形の残る窓に手を当ててみたが・・・
窓が・・・ ない・・・
「お嬢様っ!」
薄暗い部屋の中でそう叫ぶともぞもぞと音だけが聞こえる。
その音を頼りにお嬢様のベッドまで歩み寄り
そこにいるだろう存在を揺すってみる。
「まだ起きたくない・・・」
「お嬢様・・・っ」
「うるさいなぁ・・・」
「な・・・ 何があったのですっ?!」
「うるさいってば・・・」
「お嬢様っ!!!」
どれだけ起こそうとしても全く起きてくれそうにない。
仕方がなく布団を剥がし直にお嬢様を揺すって起こす事に。
「お嬢様、一体何があったのですか?!」
「何がって・・・ 何がぁ・・・?」
ゆっくりと起き上がるお嬢様。
何がどうなってこの部屋がこうなったのかと聞く私。
「ちょっとだけ模様替えしたの、大げさだなぁ、ステラは・・・」
「いえ、テスラです・・・」
「あ、そうだ、お父様はもう起きてるの、ステラ?」
「だから・・・ テスラです・・・」
結局、部屋の事を聞くチャンスも頂けないまま
お嬢様はご主人様のいらっしゃるだろう庭へと向われた。
そのお嬢様が部屋のドアから出た瞬間、まさか、と思うものを見た。
「お・・・っ お嬢様っ お待ち下さいっ!!!」
私の事は無視してあくびをしながら廊下を歩かれるお嬢様。
あの美しい栗色の長髪はどこに・・・っ?!
あの愛らしいパステルカラーをした少し大きめのパジャマはどこに・・・っ?!
大急ぎでお嬢様の後を追う私はご主人様にこの姿を見られてしまったら・・・
そう思うだけで正気を失いそうだったが・・・
「おや・・・ イメージチェンジでもしたのかい?」
ご主人様っ?!
イメージチェンジっ?!
仰る事はそれだけで宜しいのですかっ?!
「似合う?」
「髪の毛が短すぎないかい?」
「あ、やっぱり?」
「それでも君は私の愛しい娘に違いはないが」
「あ、お父様もこれ系好きなのかな?」
「君に似合うならなんでも・・・」
この二人の会話を聞いていると視線を感じた。
その視線はご主人様専属の執事、市丸ギンから・・・
まるで私を役に立たない執事とでも言いたげに。
「ギン、ギンはどう思う?」
「お嬢様系はもう飽きはったんですか? お嬢様」
「そう、だって髪の毛とかマニキュアとか大変で・・・」
「性格とも違っていたな、あれは・・・」
「お父様ぁ・・・ そんなにはっきり言わなくても・・・」
「お兄様にはもうその姿を見せられましたか?」
「ジョーなら・・・ 好みそうだが?」
「肌を露出し過ぎだーとか怒りそうじゃない?」
「あぁ、確かにそれはありますなぁ」
なぜだ・・・ なぜそのようにほのぼのと・・・
お嬢様のこの変わり具合に誰一人として驚かないのはなぜだ?
それはきっとこれが初めてではないからだろうが・・・
それでもここまでお変わりになられたのは・・・
「あ、そうだ。ね、ステラ」
「・・・ テスラです」
「はいはい、ステラ。私、ここでお父様と朝食にするわ」
「・・・ かしこまりました」
私はステラじゃない。テスラです・・・ 覚えてください。
そしてダイニングで用意されていたお嬢様の食事をトレイにのせて
それを庭まで運ぼうとした時・・・
「よぉ、ステラ」
「・・・ テスラです」
「どっちでもいいだろ、んなの・・・」
「・・・ おはようございます、ジョー様」
「はどうした、もう起きてんのか?」
「はい、庭の方でご主人様と朝食をと・・・」
「へぇ、ってかおいウルキオラぁっ! 俺の飯はどこなんだ、俺の飯はぁっ」
「・・・・・」
どこからともなく現れたウルキオラ。
彼はジョー様専属の執事としてここで働いている。
彼は愛想が悪い事で有名だが仕事に関しては天才でもあった。
「ご主人様と一緒に取られるだろうとすでに庭の方へ」
「親父とか・・・ まぁいいか、たまには」
ジョー様はそう呟いて寝起きで整っていない髪の毛を無作法に弄られた。
そして庭の方に足を進めた時・・・ ウルキオラが彼を呼び止めた。
「ジョー様」
「あ?」
「お嬢様がまたイメージチェンジを」
「またかよ? で? 今度はなんだ?」
ウルキオラの視線が私に突き刺さる。
その視線を追うようにジョー様の視線が私に追い討ちをかける様に・・・
「おい、今度はなんだよ」
「俗でいう・・・」
「んだよ?」
「ゴスとい・・・」
最後まで言葉を発する事が出来ないまま
ジョー様は物凄い勢いで庭に走って行かれた。
「お前はジョー様に殺されるな、きっと・・・」
「・・・・・」
ウルキオラは私を見てそう言った。
確かに、お嬢様のあの姿を見れば過保護な兄のジョー様は
私が悪いと・・・ 私の目が行き届いていないと・・・
憂鬱な気持ちになりながらもトレイを抱えて
庭へ足を運ぶ私の目の前を・・・ 何かが・・・ 過ぎった。
「お嬢様・・・?」
いや、まさか。姿も見えないほど早く走るとは思えない。
軽く首を横に振って正気を取り戻そうとまた足を進めたその瞬間・・・
「っ! お前ちゃんと服着ろよっ!」
ジョー様・・・っ
って事はやはりあれは・・・
「お嬢様っ!」
そう叫んでトレイを抱えたまま二人を追う私。
私の前ではジョー様が・・・
「キャミソールでうろついてたら痴漢にあうぞっ 馬鹿野郎!!!」
そう叫びながら先ほど着ていらっしゃったTシャツを手に走り・・・
そんなジョー様の前を・・・
「あんたの方が怖いからっ!!! それに家の中に痴漢がいるわけないでしょっ!!!」
そう叫びながらキャミソールと下着のような短パンを履かれたお嬢様。
あんなに美しく栗色に輝いた長髪は真っ黒な短髪に変わり。
あれほど手入れしていた爪は黒に輝き。
細くて愛らしい金色のネックレスは首輪にも見える何かに変わっていた。
あぁ・・・ お嬢様。
貴女はそのままの格好で登校されるのでしょうか・・・
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そして庭に残されたご主人様とその執事。
真っ白なポロシャツに真っ白なスラックス。
そして肩にはネイビーブルーのセーターをかけたご主人様が足を組み
骨董品の椅子に腰掛け右手に新聞。左手に紅茶の入ったカップ。
そしてそのカップにポットから紅茶を足し入れるスーツ姿の執事。
「で、どう思ってますの、本当は」
「の事かい?」
「もちろん、そうですわ」
「あの娘がそうしたいならそれでいい。が・・・」
「が?」
「私の娘を変な目で見る奴がいたら報告するように」
「どないしはるんですか?」
「そうだね、この裏の山の土地が売り出しに出ていたね、確か・・・」
「土地ですか・・・?」
「墓場を建てるには丁度いい所だと思わないかい?」
ジョー様の過保護はあんたから貰った血や、絶対に・・・
しかもそんな優雅な微笑み浮かべて「墓場」いう言葉を使うてはるんやから・・・
あー ・・・ こわ・・・
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