「お嬢様、お車の用意が・・・」
「あ、そう」
「あの、お嬢様・・・」
「ん?」
「その格好で・・・ 登校されるのですか?」
「だめ?」
だめ? と、聞かれても・・・ 困る。
黒いミニスカートに灰色のTシャツ。
英語で何か書いてあるけれどあえて、それを見ないようにしている。
そしてそのTシャツの上に黒くて大き目のカーディガン。
底の高い黒い靴に、これまた黒いストッキング。しかも太腿で止まってる。
止まった所に見えるレースが妙に目に付いてしまうので見ないようにする。
とりあえず外に出てお嬢様を待つリムジンのドアを開けると
中から運転手のスタークが口笛を吹いた。
「おっとぉ、ちゃん、なんだか色っぽくなっちゃったねぇ?」
「スカートの丈が短いだけよ、変態スターク」
「どうした? 今度の彼氏はロックバンドでもやってるのか?」
「いやだなぁ、まだ彼氏じゃないってば」
「まだ・・・ ですか、お嬢様?」
「まだよ、だって昨日転校してきたばっかりだもん」
「へぇ、一目惚れって奴か?」
「一目惚れ・・・ なのですか?」
そんな会話が車の中で飛び交う。
お嬢様は惚れやすくて冷め易いお方で・・・
しかもこうして相手によってイメージチェンジをなさる事が趣味。
そして相手を射止めて付き合い始めると「飽きた」とすぐに別れる。
そんな日々が続いてしばらくすると
お嬢様のその姿にも見慣れて来た自分。
今日もお嬢様を学校までお送りして、戻って来た私。
お嬢様の部屋に向かい床の上に散らばったお嬢様の服を拾っていく。
そしてそれをとりあえずは椅子の上にまとめて置くと
今度は寝相の悪いお嬢様のベッドのシーツを取り外す。
すると、取り外しかけのシーツの上に一枚の写真が落ちてきた。
不思議に思ってその写真を手にして言葉をなくした。
「今回の相手はそいつらしい」
突然聞こえてきたのはウルキオラの声。
いつの間にかお嬢様の部屋の中に入り込んでベッドの横に立っていた。
そして写真を眺める私を横目で見つめてそう言うと部屋から出て行った。
このお方が・・・ お嬢様が一目惚れしたお相手・・・
髪の毛が長くて背が高く物事に反抗する事を好みそうなタイプ。
思わず気が抜けてそのままお嬢様のベッドに座ってしまった私。
「あんたも大変やなぁ」
次に聞こえてきたのは市丸ギンの声。
振り向いて彼の姿を見る事もせずにただ写真を見つめながら・・・
「いえ・・・ 平気です・・・」
「なぁにが平気や、そんな顔全然しとらへんで?」
「じゃぁ、私は今どんな顔を?」
「また失恋した、見たいな顔やな」
「人の顔、見えないのに勝手に決め付けないで下さい」
「なんや・・・ 聞いてきたんはあんたやろ?」
言い返す言葉が見つからずに黙っていると・・・
「それより、ちゃんに荷物が届いてるから」
そう言われ、執事である私は玄関まで出て代行受取人として
その荷物を受け取るために部屋を出た、その瞬間・・・
「ステラぁ?」
「テスラです・・・」
私の携帯がお嬢様専用の着メロとなるモノを流した。
市丸ギンを先頭に玄関へと向いながら廊下を歩く私。
「言い忘れたけど荷物が届くから」
「はい、只今受け取りに行く・・・」
「それ、全部ステラのだからね?」
「はい?」
「家に帰ったら手伝うから」
「あの・・・ お嬢様・・・? それは一体・・・?」
「あ、やばい、授業中だから! じゃーね!」
「じゅ・・・ 授業中って・・・ お嬢様っ?!」
ツーツーと音を出す携帯を見て不安を感じる私を見てにやける市丸ギン。
玄関に辿り着くと腕を組んで割と大きな箱の横に立つウルキオラ。
そして荷物を受け取り3人でその箱を見下ろしている。
その箱の中に何が入っているのか不安なのは私だけではないようだ・・・
そこへ丁度現れたのがジョー様。
「なにやってんだ?」そう言って箱を蹴る勇ましいジョー様・・・
お嬢様から言われた事を話すと「へぇ・・・」そう言って・・・
いきなり箱を開ける事に決め、中から掴みだしたモノを掲げるジョー様。
「・・・ なんだ、これ?」
「なんでしょ・・・」
「爆発しないだろうな・・・」
「ぬいぐるみが爆発しますか、普通・・・」
ジョー様が手にしているのは大きなクマのぬいぐるみ。
今のお嬢様からしてこれが必要だとは思えない。
いや、荷物は全て私のだと確か言っていた気が・・・ いや、待て。
そして今度は市丸ギンが箱の中から何かを取り出して
ジョー様と同じように手にしてぶら下げた。
「なんやねん、これ・・・」
「ピンクだぞ、おい・・・」
「レースが付いているではないか・・・」
「これ・・・ どう見てもカーテンですよね・・・?」
不思議に思いながら目の前にぶら下がるぬいぐるみとカーテンを見る私達。
突然、ウルキオラが何かを思いついたように箱に貼られた注文書を見た。
「どうやら間に合わなかったらしいな・・・」
「間に合わなかったってどういう事だよ?」
「あぁ・・・ イメチェンにですか?」
「じゃぁ、これはお姫様系のための・・・」
って事は、この他の箱達もきっと・・・!
そんな不安が過ぎりどんどん箱を開けて行く私の目の前に姿を出すのは
お姫様系の・・・ タンス! テーブル! 椅子! 壁紙! ありとあらゆる家具!
「お嬢様っ?!」
授業中だと言っていた事を忘れてお嬢様に連絡をする私。
「ちょっと、授業中なんですけど・・・」
「お嬢様っ これは一体・・・っ」
「2週間前に頼んだのよ、でももういらないから」
「だから私のだと・・・っ?!」
「だってステラの家具古いじゃない」
「テスラですっ!!!」
「それより、もう切るわよ、じゃぁね」
「お、お嬢様っ! 私はこのような家具は要りませんから・・・っ お嬢様っ?!」
そしてまたツーツーと音を出す携帯。
その音だけがこの静けさに響き3人の男達から刺さるような視線が私に集中した。
彼らは何も言わずに溜息を付きながら私の肩を叩いてその場を去った。
この・・・ お姫様家具の中に私を一人残して・・・
もちろん、学校から帰宅されたお嬢様は
その家具達を私の部屋にセットする事を楽しまれた・・・
時々顔を覗かせる市丸ギン・ウルキオラ・ジョー様に見守られながら
私のこのシンプルな部屋はどんどんピンクに変わっていった・・・
その日の夜、ピンクでふわふわのベッドに横になった私は
ピンク色で花模様のランプから漏れる明かりで一枚の写真を見つめた。
お嬢様には・・・ きっとこの方しか見えていないんだ、と。
私がどれだけピンクに囲まれようと気にもせずに・・・
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「ジョー様、お夜食を持って参りました」
「あぁ」
言葉にはしなくとも男あらずもピンクに囲まれて
夜を過ごすテスラの精神状態を案ずる2人の男達。
「なぁ、ウルキオラ」
「はい」
「お前の家具も古いよな?」
「遠慮します」
「何も言ってないぜ?」
「あなたの考えている事は手に取るように分かる」
「そっか? ピンクがいやならパステルカラーっぽく・・・」
「ジョー様」
「んだよ」
「お夜食の味は如何でしょうか?」
「・・・・・」
「なぜ召し上がらないのですか?」
「お前の考えてる事は手に取るように分かるんだよ・・・」
「・・・ お大事に」
この屋敷内ではテスラ以外にも主と葛藤する執事が存在した・・・
だが、執事の方が上回り、主の方が執事と葛藤しているのかもしれない。
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