お嬢様が猫になると騒動を起こしてから数日。
「ウルキオラ・・・?」
「猫になりたいなら猫として扱ってやる」
「いや、でもそれはまずいんちゃうかなぁ?」
「だって、それ猫の餌・・・」
「そうだ、だからどうした」
「しかも缶に入ってる奴・・・」
そして夕食のためにジョー様とじゃれ合いながら
ダイニングルームへと入らしたお嬢様。
テーブルの上にはいつものように豪華な料理があるが
お嬢様の席には・・・ お皿も何もセットされていない。
「あれ? 私のお皿は?」
「おい、猫」
猫って・・・ お嬢様の事を猫って・・・
焦る私と市丸ギンの目が合った。
そんな私達を残してウルキオラは部屋の隅へ。
片手に例の猫の餌。そしてもう片手に小さなお皿。
部屋の隅に立つウルキオラはお嬢様を見るとこう言った。
「餌の時間だ・・・」
それと同時に缶が開く音が静まり返った部屋に響き
あまり美味しそうではない音がその後を。
そしてあの猫の餌独特の匂いが部屋の中へ浸透していった。
呆気に取られて様子を見ていたジョー様が大笑いをしたかと思うと
お嬢様はジョー様を睨んだ後に部屋の隅へ座り込まれた。
無作法に部屋の隅に置かれたその小さなお皿を見つめている。
やはりこれはいくらなんでもやり過ぎだったのではないかと心配する私。・
だが、お嬢様はその餌をしばらく見つめた後で・・・
「スプーンぐらい・・・ 貰えないの?」
その言葉を聞いた私は何も言わずにお嬢様の元へ。
そしてお嬢様の腕を掴んで立たせると無言でテーブルへと導いた。
それからしばらくはウルキオラとお嬢様の・・・
まるでどちらが先に非を認めるか、のようなゲームが続いたが
それに見かねたご主人様によってそれも終った。
「猫であろうがなんであろうが私の可愛い娘だ」
「ウルキオラ、私の娘が猫として食べるならばキャビアにしてくれないかい?」
「それから明日は市場で新鮮なマグロを買って来ておくれ」
「愛する娘ならば猫として最上級のものを食べさせてあげたいんだ」
それを聞いたお嬢様は・・・
「そんなの面白くない、もういいや猫になるのは」
お嬢様のその言葉を聞いた皆が胸を撫で下ろした。
お嬢様の決心がそれだけの事だった、その事実はいいとして。
とりあえずこの猫騒動が終わった事に皆が幸せを感じた。
しかし・・・ その幸せもそれほど続かなかった・・・
「おい、テスラ」
「はい、ジョー様?」
地獄の日々の始まりのベルを鳴らしたのはジョー様だった。
ジョー様はある日突然、廊下を歩く私の腕を捕まえると
そのまま何かに隠れるようにウルキオラが待つジョー様の部屋へ。
「そこに座れ」と言われるがままにジョー様の部屋の中にある椅子へ。
そしてその向かいでは足を組んで座るウルキオラ。
ジョー様はそんな私達の間にあるテーブルに跨るように座ると・・・
「にはまだ言ってないんだけどよ・・・」
「はい?」
「ノイトラの事で・・・ ちょっと聞いたことがあるんだ」
「ノイトラ様の事で、ですか?」
「あいつ・・・ 男好きらしいぞ」
「そうですか・・・ え・・・? はい? 今なんと・・・?」
「ノイトラは世間で言うゲイだ」
あまりにもはっきりとそう言ったウルキオラに私の視線が向かう。
そしてジョー様が「はっきり言いすぎだ」とウルキオラを睨まれた。
「はっきり言わずにどう説明するつもりだったのだ」
「物事には順序ってもんがあんだよっ」
「あの・・・」
「ノイトラがゲイだと言う事をどんな順序で説明できると言うのだ」
「おっ前、偉そうにふれくされてんじゃねぇよっ」
「あの・・・ ちょっと・・・」
聞いた事は理解しているのだが確認したい私。
必死にこの二人の会話に入り込もうとするが無視される。
「ノイトラはゲイだ」
「うるせーっつってんだろ?!」
「いえ、だからその・・・」
「ノイトラは・・・」
「黙ってろよこの無表情野郎っ」
「・・・・・」
「馬鹿を言うな、私にだって表情はある」
「ねーよっ! お前に表情なんてねぇよっ! ついでに顔色もねぇよっ!」
「・・・・・」
「色白が好きなのだ、それに紫外線は危険だ」
「お前男の癖に紫外線って・・・」
「・・・・・」
ジョー様がこの情報を何処で手に入れたのか。
もっと繊細を聞きたいが聞けるような状態ではない。
そしてそれよりも・・・ 私はお嬢様の事が心配になった・・・
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「え?」
「どうやらそうらしいです」
久しぶりに出勤する事もなく自宅で寛ぐご主人様。
先ほどウルキオラから聞いた情報を早速報告する市丸ギン。
手にしていた本を思わず膝の上に落としてしまったご主人様。
そして香り高い紅茶をご主人様に運ぶ市丸ギン。
「どうやらノイトラはんは男好きのようです」
「・・・・・」
滅多に見ることの出来ない真剣なこの顔。
ご主人様はきっとお嬢様の事を気にかけているに違いないと。
愛する娘が傷付いてしまうかもしれない事を心配しているはず。
あれだけお嬢様を愛していらっしゃるご主人様の事。
きっとその時のために、いや、そうなってしまわないように何か・・・
ザエルアポロはんの時のように策を練っているに違いない。
だが・・・ 間違っていた。
「男好きって・・・ それはおかまって事かい?」
「・・・ はい?」
「クロスドレッサー・・・ いや、あれは違うな・・・」
「・・・・・」
「ニューハーフと言う奴かな? あの綺麗なショーをする・・・」
「・・・ は?」
「それともあの・・・ なんだったかな・・・」
「さぁ・・・ なんでしょ?」
「どっちにしても綺麗な顔立ちなんだろうね、ノイトラは」
「・・・・・」
なんやねんっ 話の視点が完璧にずれてるやんかっ!
それになんや、その綺麗な顔立ち言う想像は・・・っ
なんか知らんが話してる内容さえ分からんようになったわっ
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