ノイトラの話を聞いてから数日間。
私はお嬢様から彼の話を聞くのが辛かった。
いや、元々辛かったわけだが、お嬢様の叶わぬ恋。
そう思うと自分の伝わらないお嬢様への想いよりも心が痛んだ。
そんなある日、お嬢様とジョー様が学校へ行かれてすぐ。
お嬢様の部屋を掃除している私の元に市丸ギンが現れた。
「ちょっとええ?」
「何か?」
「お客さんなんやけど・・・」
「お客様、ですか?」
少し戸惑った表情を見せた市丸ギン。
そん彼を押し退けるようにある1人の人物が部屋の中に。
「あっらぁ、お嬢様にしては荒れた部屋なのねぇ」
「ちょ・・・っ 困ります、勝手に入られては・・・っ」
「貴方はだぁれ? やだ、よく見ると可愛いじゃない」
「は・・・?」
そして、自分の指先に私の顎を乗せると
私の顔をくいっと上に向かせたその人物がどアップで現れた。
「貴方、名前は?」
「テ・・・ テスラです」
「あ、そ」
「あ、そ・・・ って・・・ あの・・・っ 困りますっ」
お嬢様の部屋の中を眺めると
次はお嬢様の私物を指先で持ち上げてはぽいっと投げる。
私はそれらをキャッチしながら市丸ギンに助けの視線を送った。
「ご主人様が呼んだらしいわ・・・」
「ご主人様が?」
「そうよー、このシャルロッテちゃんを雇ったのはあの素敵なおじ様よん」
私と市丸ギンの眼は大きく見開き顎は床に落ち
そして視線がその人物に釘付けになってしまった。
いや、見るからに彼・・・ 彼女はその系統なのだが・・・
その名前は・・・ 一体誰につけて貰ったんだっ?!
「ここのお嬢様が私の助けを必要としているって聞いたの」
「お嬢様が・・・ ですか?」
「助けが要るんはあんたやろ・・・」
小さく呟いた市丸ギンの声をしっかりと聞いてしまったシャルロッテ。
ぎらりと光る瞳で市丸ギンを睨むと笑顔で私の方を見た。
「ステラだったかしら・・・?」
「テスラです・・・」
「そうそう、ステラだったわね、貴方はお嬢様の専属執事でしょ?」
「だから、テスラです」
「さぁ、このお嬢様のお話を聞かせて貰いましょうか」
「お話と言われても・・・」
まだお嬢様の寝ていた形跡が残るベッドに座り込んだ彼女。
掃除をする不利をして何気にベッドから下ろそうとする私。
しかし、私の努力は無駄なまま、手を掴まれてそのまま隣へと座らされた。
「ちょっと、そこの貴方、気を使ってお茶ぐらい淹れて来たらどう?」
「なんやねん、一体・・・」
市丸ギンにそう言うと私の手を握ったままにこやかに私を見た。
そして・・・ とんでもない事を・・・
「貴方のお嬢様、私のように美しくなりたいんですってね?」
「はあっ?!」
「殿方に恋をしてしまったとか・・・」
「いや、殿方というか・・・ ノイトラというか・・・」
「殿方であろうとノラネコであろうと恋は恋よ」
「いえ、ノイトラです・・・」
「この私が貴方のお嬢様を美しき存在として変えて見せるわ」
「お嬢様はすでに美しき存在です・・・」
そう答えた私を大きくさせた瞳で見ると私を抱き寄せた。
「貴方、お嬢様に恋をしてるのねっ!!!」
「殿方のために美しくなろうとするお嬢様」
「そしてそんな彼を愛する専属執事の愛っ 美しすぎるわっ!!!」
足掻く隙間もないほど固く抱き寄せられてしまった私。
お嬢様の事を『彼』だと言った事を聞き逃しはしなかったが・・・
あまりにも苦しくてお嬢様はすでに女性である事を言えなかった・・・
++++++++++++++++++++++++++
「ご主人様」
「ギンかい? どうしたんだい、君が電話をしてくるなんて珍しいな」
「お仕事中に申し訳ありませんが・・・」
「まさか・・・ まさか子供達に何かあったのかいっ?!」
シャルロッテの存在をどうしても理解出来なかった市丸ギン。
これは直接、ご主人様に聞くべきであろうと
仕事中のご主人様の携帯へと連絡を入れたが・・・
滅多に連絡を入れない市丸ギンからの連絡。
ご主人様は愛する子供達に何かあったのではないかとパニック。
会社から会社への移動中だったようで
電話の向こうで必死に「車を止めろ」と叫ぶご主人様の声。
「いえ、ちゃいますから」
「チャリ? 自転車事故かいっ?!」
「は? いえ、ちゃいますからって・・・」
「チャリなんだね? 自転車事故なのかいっ?!」
「ちゃうわっ!!!」
「あ、ごめんよ・・・」
思わず苛立ってご主人様に怒鳴ってしまった市丸ギン。
落ち着きを取り戻したご主人様に本題をぶつけてみる。
「あの、シャルロッテはんゆう方が来てますけど?」
「あぁ、昨日見つけてきたんだ、のために」
「失礼ですが・・・ なんのためにですか?」
「ノイトラに好いて貰えるように色々努力をしてるからね」
努力はしてるが、これはかなりずれていると思う市丸ギン。
「だからシャルロッテちゃんを呼んだんだ」
「いや、だからなんのためにですか?」
「ノイトラは男が好きなんだろう? あの、ニューハーフとかいうのが」
「そうじゃなくてですね・・・」
「彼女ならきっとにニューハーフへの道を教えてくれるだろうと思ってね」
「もうええです・・・」
相変わらず人の話を聞いていなかったご主人様に呆れた市丸ギン。
それ以上に世間を知らないまま会社を幾つも手掛けているという事実。
そのギャップに怒りさえも感じてしまう市丸ギン。
溜息を付いて肩を落としながら携帯を切ると思わずそれを握り占めていた。
ぷるぷると震え始めるその手を見て落ち着こうと努力をする市丸ギン。
そんな市丸ギンを見て不安そうに声をかけたのはウルキオラ。
「おい、お嬢様の部屋でテスラが何かと抱き合っているぞ・・・」
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