私のベッドの上で眠っておられるお嬢様。
少し苦しそうなこの呼吸は熱のせいだと言われたが。
本当は、私を守るためにどこか怪我をなされたのではないかと不安だ。




「しっかし、馬鹿だと思ってたけど本当の馬鹿だな、こいつ」
「ジョー様・・・」




突然、私の背後に現れたジョー様。
慌ててベッドの横の椅子から飛び上がって挨拶をすると
ジョー様は手を上げて「気にすんな」と仰った。




「化物に飛び掛って行ったんだってな、こいつ」
「はい・・・ いえ、化物ではありませんが・・・」


「ウルキオラは化物だって言ってたぞ」
「いえ・・・ はぁ・・・ まぁ・・・」


「なんだかんだでお前のこと、大好きだからなぁ、こいつ」
「・・・ え?」


「まぁ、起きたら俺が『馬鹿だ』って言ってたって、な?」
「はい・・・ かしこまりました・・・」




ジョー様はそう言うと眠っているお嬢様を見て優しく微笑み
そして私の肩を軽く叩いて部屋から出て行かれた。
「なんだかんだでお前のこと、大好きだからなぁ、こいつ」
あの言葉が・・・ 私の頭から離れない、イヤ、離したくない。




もう1度椅子に座り、お嬢様の寝顔を見つめる私。
そっと手を握り、お嬢様の回復を祈るだけ。




「テスラ」
「ウルキオラ・・・?」


「お嬢様が目を覚ましたらこれを」
「ありがとう」




ウルキオラは夕食のかたづけを終らせると
お嬢様のためにサンドイッチを持って来た。
少しでも食べた方がいいだろうとフルーツも添えて。
でも、喉が痛くて食べれない時のためにヨーグルトやジェリーも。
それでもだめだった時のためにフルーツジュースをも添えて。
フルーツジュースが喉を痛めるならばとお茶やお水も。




「テスラも少しは食べとかな」




そしてウルキオラの後ろからは市丸ギン。
トレイに私のための夕食を乗せてやって来た。
そういえば・・・ ここにお嬢様が運ばれてから私は動いていない。
この部屋から一度も離れていなかった。




「あんな化物に1人で飛び掛るとは・・・ たいしたもんだ」
「テスラのためやったんやろうな」




そう言いながらお嬢様の様子を伺う2人。
でもすぐに、お嬢様を休ませるために部屋から出て行った。
何度も繰り返される「テスラのために」という言葉。
お嬢様は・・・ 本当に私のために・・・




お嬢様・・・ 私のためにあんな事を・・・」




怪我でもなされていたらと思うと自分の力なさに呆れてしまう。
そっとお嬢様の額に置かれたアイスパックを新しいものと取替え
それから少しだけお嬢様の汗を拭いているとお嬢様が目を覚まされた。




「お嬢様・・・?」
「・・・・・」


「ご気分は如何ですか?」
「ステラ・・・ 大丈夫・・・?」


「え?」
「怪我しなかった?」


「いえ、私は・・・」
「そ・・・ なら良かった・・・」




こんな時にまで私の事を心配してくれているのか・・・
そう思うとお嬢様が今まで以上に愛しく思えてしまう。




「ステラには・・・ 私の結婚式に出て貰わなきゃ」
「結婚式・・・ ですか?」


「ステラと一緒に貰ってくれる人と結婚するの」
「はい?」


「私は・・・ ステラとずっと一緒にいるんだもん・・・」
「・・・ はい、お嬢様」


「私が赤ちゃん産んだらステラと一緒に育てるんだもん」
「はい、お嬢様・・・」


「ずっと・・・ ずっと・・・ 一緒にいるんだもん・・・」
「もちろんです・・・ お嬢様・・・」




お嬢様はそれだけ言うと私の布団を掴んで
「ステラのベッド・・・ 気持ちいい」と言い残して
また深い眠りに入られた。




ウルキオラが用意してくれた物を進めるチャンスさえなく。
お嬢様は・・・ 何やら安心したようにまた眠られた。
お嬢様が私に仰った事は光栄な事で・・・
執事としては誇りにさえ思えるはずなのに少し寂しく思える。
お嬢様は一体、どんな人と結婚されるのだろうか。
そしてどんなお子様をお産みになるのだろうか。
私はそれでもお嬢様にこうして御使えする事が出来るだろうか。
お嬢様が・・・ 他の誰かと結ばれても。





++++++++++++++++++++++++++





「どうやらは元気になったようだね」
「そうですなぁ」


「やっぱりこの家にはあの2人の元気な姿がよく似合う」
「そうですなぁ」


「ところで・・・ はどうしてジョーを追い回しているんだい?」
「実は・・・」




テスラが素直にジョー様のメッセージを伝えたからや。
おかげで病み上がりのちゃんは家中を走り回ってる。
ジョー様の事を「教師フェチ」と叫びながら・・・




「ギン」
「なんですか?」


「教師フェチとはなんだい?」
「教師が好きという事やないですか?」


「ジョーは教師が好きなのかい?」
「みたいですなぁ、今までに数人ほどの教師と・・・」




そういえば・・・ ちゃんの恋愛の事でいつも騒いでいるけど
ジョー様の恋愛関係については全くと言っていいほど情報がないなぁ。
まぁ、昔から何かと言えばちゃんが「教師」と騒いでるぐらいや。




「そうか・・・ ジョーは教師が好きなのか・・・」




そう呟いて朝の紅茶に手を伸ばした旦那はん。
その呟きに覚えがある・・・




「あの・・・ また妙なもん、送らんといて下さいね?」
「どうしてだい? ジョーに素敵な教師を捧げたいのに」


「いやいや、彼の教師は彼の学校にいますやろ」
「シャルロッテちゃんの知り合いじゃだめかい?」




だめに決まっとるやないか、懲りんやっちゃな、このおっさん!!!






NEXT