今日は会議でいつもより早く出勤しなければならないご主人様。
そしてその後ろからご主人様のカバンを持って歩く執事。
「ギン、昨日頼んでおいた書類は?」
「カバンの中です」
「総務には連絡が取れたのかい?」
「はい。2時間後には会議の方に来ると言うておりました」
「ジョーやの予定は?」
「いつも通りとちゃいますか?」
「そうか」
「と、思いますけど・・・」
静かに廊下を歩いているご主人様と執事。
子供達を愛するご主人様は2人に会えずに出勤する事を嫌う。
だが、こればっかりは仕方がない。
せめて夕食だけでも一緒に出来ればと願うだけ。
でも、はっきりした彼らの予定が分からず少し落ち込んでしまった。
そんな中、突然聞こえてきた怒鳴り声と叫び声。
そして突風のようなものが立ち止まったご主人様と執事を通り過ぎた。
「っ! 待てよっ!」
「いやあああっ!」
「お嬢様あっ!」
一瞬、何が怒ったのか把握できなかったご主人様。
少しだけ首を傾げて何かを思考すると表情が明るくなった。
「旦那はん?」
「確かに・・・ 確かに彼らの予定はいつも通りのようだ」
いつもと変わらずにぎやかな子供達の姿を見る事が出来た。
それだけで何も思い残す事無く出勤できると嬉しそうなご主人様。
「おはようございます」
さっきの騒々しさとは違って冷静なウルキオラがご主人様と執事に挨拶を。
一度は立ち止まって挨拶をした彼もすぐに3人が消えてしまった方へ。
ご主人様は幸せそうに執事に見送られて仕事に出勤。
そして・・・ ご主人様を見送った執事が家の中に戻ると・・・
「っ! お前いい加減にしろよっ!」
「お嬢様っ」
その怒鳴り声と共に右から左に3体の物体が前を横切った。
「まだやってんのか・・・」そう思うと、無表情のウルキオラが彼らの後を歩いて行く。
「ジョーってこんな人がタイプだったんだって!」
「お嬢様っ お願いですから止まって下さいっ」
すると今度は左から右に3体の物体が移動。
その途中に自分のもとに放り投げられた一枚の写真。
それが宙を舞い、受け取ろうとした自分の手に舞い込む瞬間・・・
「これはジョー様だけのもの・・・」
そう言ってウルキオラが歩きながら
その写真を取り上げると少しだけ歩いて立ち止まった。
「なんやねん、一体・・・」
そう呟くとまた右から左に3体の物体。
でも、ウルキオラがさっと腕を上げ手に持っている写真に気が付いたジョーは
その写真を受け取りその場に座り込んでしまった。
「ジョー様、こんな朝早くから珍しい、そんなに走ってもうて・・・」
「あいつが・・・ あいつのせいだっ」
息を切らしながら指差すジョー様。
その向こうには同じように息を切らして座り込んだ。
そののもとに今にも倒れそうになりながらもバスローブを持って行くテスラ。
「お・・・ お嬢様・・・」
「なに・・・ ステラ・・・」
「そのような格好では・・・ お風邪を・・・ お風邪をめします・・・ から・・・」
「あぁ・・・ ってか私走ったから暑くて汗かいてるんですけど・・・?」
座り込んだに問答無用とローブを肩からかけると
壁に縋って横腹を押さえながら必死に呼吸を整えるテスラ。
どうやら名前を正しく呼ばれていない事すら気にならないらしい。
「ほんっまに朝から元気やなぁ・・・」
そんな4人を見て思わず呆れてしまった市丸ギンは
ジョーとに夕食はご主人様ととるようにと言い聞かせて
その場を去って台所に行ったが・・・
「見られて困るなら持ってなきゃいいでしょっ」
「別に持ち歩いてねぇよっ お前が勝手に部屋から盗ったんだろっ」
「お嬢様・・・ そろそろ登校のご用意を・・・」
「ほら見ろっ 下らねぇ事ばっかやってないで用意しろよっ」
「絶対に言ってやる! ジョーが彼女を好きなこと絶対に言ってやる!」
「お嬢様、お願いですから早くご用意を・・・っ」
「なんやねん・・・ なんやねん、この元気の良さは・・・」
そう思って台所に飲み物を取りに駆け込んできた3人を見て思う市丸ギン。
関わりを持たない方が無難だと心得ている市丸ギンはただ、黙っていた。
が。
「ギン! ジョーったら学校の先生に恋してるんだよっ?!」
「してねぇよっ このボケっ!」
「だってあの先生の写真持ってるじゃないっ」
「持ってちゃ悪いのかっ! 悪いのかっ?!」
「逃げるが勝ちやな・・・」そう思ったギンはゆっくりと台所から出ようとしたが
無表情で台所のドアの前に立つウルキオラに邪魔された・・・
「まさか・・・ 一人で逃げる気ではあるまいな・・・」
「当たり前や・・・ はよ、のいて」
そして、ウルキオラに懇願していると聞こえてきた叫び。
「大体なぁ、この人はパンクロックも好きなんだよっ お前と違ってなっ!」
「そんなの関係ないじゃないっ」
「好きな男の曲も聞けねぇ癖にグダグダ言ってんじゃねぇよっ」
「そ・・・っ そんな事・・・」
しーんと静まり返るこの台所。
ジョーが言ってはいけない事を言ってしまったのは一目瞭然。
みんなの視線がに集まった・・・
は悔しそうに涙を一杯溜めてジョーを睨んでいる。
その姿は見ているにはあまりにも可哀相過ぎた・・・
「お嬢様・・・ 学校に行く時間ですから・・・」
テスラはそんなの気持ちを察してか
その場からを連れ出そうとする。
そっとの肩に手を置いて、台所から連れ出そうと誘導する。
市丸ギンを遮っていたウルキオラはすぐにドアから移動した。
そしてがテスラに誘導されて出て行く姿を見守った。
「お嬢様・・・」
「・・・・・」
「今日は何をお召しになられますか?」
「・・・・・」
「こちらなんてどうでしょう? これにこのピンクの・・・」
「もういい・・・ 自分で出来るから・・・」
部屋に戻ってからもお嬢様は口数が少ない。
ちょっと俯き加減でボーっとしていらっしゃる。
いつものような元気は・・・ 全くない。
車に乗る時にも、お嬢様は俯いたままで。
スタークに声をかけられても作り笑いで誤魔化した。
「お嬢様」
「ん・・・?」
「お嬢様が大好きなカップケーキを用意してお帰りをお待ちしていますね」
「うん・・・」
そして少しだけ見せたあの微笑みも作ったもの。
お嬢様には笑って「行ってくるねー」と言って貰いたい。
いつものように我侭を言い残して笑顔で一日をはじめて貰いたいのに。
お嬢様・・・
私は執事として失格なのでしょうか?
お嬢様のお世話をするべきこの私は
あなたに笑顔すら与える事が出来ないのだから・・・
お嬢様を見送ったテスラはいつものようにの部屋に向った。
もちろんそれは彼女の部屋を掃除するため。
そんなテスラを市丸ギンとウルキオラが見つめた。
静かに廊下を歩く彼の姿を見た彼らの視線は・・・
「な・・・ なんだよ・・・」
「ったくぅ、言わんでもええ事言いはるからぁ・・・」
「朝から2人の人間を傷付けるといい度胸だ・・・」
2人からの殺気ある視線に焦るジョーに集まった。
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兄弟げんかがあったとは知らずに会議に出席したご主人様。
「藍染様、この度の当社の新製品のイメージは・・・」
「パンクロックなんてどうだい?」
「は・・・ はい?」
「パンクロックがいいと思うのだが・・・」
「あの、イメージの方は先週お嬢様系に決定したのですが・・・?」
「パンクロックでいいじゃないか」
「ですが・・・ 我々はお嬢様系で企画を進めたので・・・」
「そうかい? 悪かったね、もう一度企画の建て直しを頼むよ」
どこまでも我が子達を愛するご主人様。
この新製品は我が娘のイメージでと決めたらしい。
しかし、この会社の宣伝部は新製品である赤ちゃん用ベッドに
どうやってパンクロックのイメージを付ければいいのか頭を抱えたらしい・・・
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