「やっと帰って来たのか・・・」
荷物を抱えた私とスタークを前に機嫌悪く立つお嬢様。
ウルキオラのいつもの愛想のない迎えに苛立っているようだ。
「お帰りー! とかって喜べない?」
「なぜ、喜ぶ必要がある?」
「ケーキ、買って来て上げたんだよ?」
「頼んだ覚えはない」
2人のやり取りを見守りながら荷物を中へ。
すると突然、聞き慣れた声が私を呼んだ。
「テスラ!」
その声に顔を上げるとスンスンお嬢様が私に飛びついて来た。
その勢いでよろけながらも、しっかりと両足に力を入れて立つ私。
「スンスンお嬢様・・・ お帰りなさいませ」
「逢いたかったわ!」
スンスンお嬢様は私を手放してくれる様子はない。
お嬢様の視線と・・・
その隣にいつの間にか現れたハリベルの視線が痛いほどに刺さってくる。
「スンスン・・・」
「、スンスン様はお前の事を忘れているわけではない」
「でも、いっつも彼が先なんだもん・・・」
「気に入っているようだからな・・・ テスラの事を」
「ねぇ、ハリベル、オレンジのケーキ好き?」
「・・・ は?」
ハリベルがお嬢様と話をしている。
その様子に少しだけ焦る自分がいる。
ハリベルは女だがスンスン様に仕えている身。
しかも、まだここに住んでいる時はハリベルはお嬢様の・・・
親友とでもいえる存在だったからだ。
誰の手にも負えないお嬢様でも、ハリベルだけには・・・
それを思い出すと自分が情けなくなり
どうしても悔しい思いをしてしまう。
「ち蛯チとテスラ」
「はい?」
「久しぶりに帰って来たのよ? キスぐらいくれてもいいでしょ?」
「いえ、とんでもないです、スンスンお嬢様」
「あら、どうして?」
「私のような者が・・・ そんな事は・・・」
丁寧にそのお誘いを断っているつもりだったのに
私の唇はスンスンお嬢様によってすぐに塞がれてしまった。
驚いている暇もなくハリベルに・・・
「が怒って部屋に行ってしまったが?」
大慌てでお嬢様のお部屋へ向かおうとする私を
スンスンお嬢様が力強く引き止めた。
「私が行くわ、可愛い妹を怒らせちゃったみたいだから」
「スンスンお嬢様・・・」
「テスラ、お前も相変わらずだがも相変わらずなようだな」
ハリベルにそんな意味深な事を言われながらも
お嬢様のお部屋へ向かわれるスンスンお嬢様に頭を下げていた。
そんな私に「いいねぇ、お前は・・・ スンスンちゃんにキスされちゃってさ・・・」
と、呟いたのはすっかり忘れていたがその場にいたスターク。
呆れて何も答える事が出来ずにやっぱりお嬢様が心配で・・・
スンスンお嬢様とハリベルの後をそっと付いて行く私。
「、そんなに怒ってた?」
「はい」
「それは私に? それともテスラに?」
「どちらとも言えませんが」
「まったくしょうがない子ね、ったら」
「ジョーよりは可愛げがあると思いますが・・・」
ジョー様が廊下の向かい側から歩いてくるのを招致で言ったその言葉。
「大きなお世話だっ」
通りすがりにハリベルにそう答えるジョー様。
そんなジョー様のお尻を軽く叩いたスンスンお嬢様。
ジョー様は驚いて自分のお尻を隠しながら飛び上がられた。
「兄弟でもセクハラってのはあんだぞっ スケベ女!」
焦るジョー様をただ笑いものにしていらっしゃるのはスンスンお嬢様。
昔からそうだった・・・ スンスンお嬢様は。
ハリベルはそんなお嬢様を見ても顔色一つ変えないプロだ・・・
そしてお嬢様の部屋の前まで来ると・・・
「、入るわよ」
それだけ言うとノックもせずに部屋に入って行ったスンスンお嬢様。
ハリベルは開いたままのドアから様子を伺っているように見えた。
そんなハリベルの様子を伺っている私に気が付き手招きもした。
お嬢様は・・・ ベッドの上でうつ伏せになっておられた。
あまりの悲しそうなその様子に思わず駆け寄りたくなったが
もちろんハリベルが私の胸に突いた1本の指で止められた・・・
「どうしたの? 」
「スンスンは・・・ いつも彼ばかり!」
お嬢様のベッドの上に座られたスンスンお嬢様は
優しくお嬢様の髪の毛に触れていた。
「だって・・・ 彼が可愛くて仕方がないんだもの」
「私より・・・?」
「馬鹿ね・・・ そんな心配をしていたの?」
「だって・・・」
「可愛い妹の面倒を見て貰うためにはその執事を可愛がらなきゃ」
「そうなの・・・?」
「そうよ、だから彼に優しくしているの」
「ホント?」
この会話を聞いたハリベルは・・・
「相変わらず単純だな・・・ は・・・」
と、またしても意味深な事を呟いた。
「じゃぁ、私もハリベルに優しくしなきゃだめだよね?」
「え・・・? どうして?」
「だって、スンスンの執事だもん」
「そ、そうね・・・」
この時、私は見た。
スンスンお嬢様が何をしても顔色1つ変えないハリベルが
密かに眉毛を引き攣らせている所を・・・
お嬢様は何かを決意したようにベッドから飛び起きると
ドアの方を向いて・・・ そしてベッドから飛び降りたかと思うと
猛ダッシュでハリベルに飛びついた・・・
「っ?!」
「お・・・ お嬢様・・・っ」
勢いによろけるハリベル。
お嬢様が落ちて怪我をしないようにと焦る私。
そして・・・ そんな事は気にもせず・・・
「ハリベル、キスしよう!」
「は?!」
「お嬢様っ?!」
ハリベルに唇を突き出すお嬢様。
スンスンお嬢様に助けを求めるハリベル。
呆れて溜息を付いているスンスンお嬢様。
やっとの事でお嬢様から逃げ出せたハリベルは
もちろん廊下を走って本当にお嬢様から逃げようとしていた。
そんなハリベルを見たお嬢様は・・・
「ステラっ! ハリベルを捕まえてっ!」
いや、別にね・・・ いいんです。
スンスンお嬢様とハリベルしか私の名前を覚えてくれてなくたって。
でも、こうゆう時ぐらいはちゃんと言って欲しかった・・・
走れと言われているのにその走る気さえも出ませんから。
「ステラっ 何やってるの! 早くっ!」
「はい、お嬢様」
仕方がなく走り始めた私の後ろで聞こえた会話。
「あら? 彼の名前ってテスラじゃなかった?」
「ステラでしょ?」
「そうなの?」
「スンスン、覚えてないの?」
愛する私のお嬢様・・・
覚えてくれていないのはあなたの方です・・・
++++++++++++++++++++++++++
「スンスン達が戻っただけで賑やかだね」
「そうですなぁ」
廊下を走り捲くっているテスラとハリベル。
その2人を追うスンスンお嬢様とお嬢様。
「そういえばジョーはどこにいるんだい?」
「さぁ、さっきキッチンの方に向かってましたけど?」
紅茶を飲みながらご主人様が見ているのは
お嬢様が買って来た幾つものケーキ。
自分のために選んでくれたのかと思うと
涙が出そうなほど喜びを感じているご主人様。
そしてその様子を和やかな気持ちで見守る市丸ギン。
彼らの後ろでは廊下を走り捲くる2人のお嬢様とその執事達。
そして、先ほどまで行方が分からなかった息子、ジョーが現れ
ご主人様に声をかけた。
「お? ケーキかよ?」
「ジョー、抓み食いはだめだよ」
「腹減ってんだよ」
「これはがみんなのために選んできたんだから・・・」
自分のために選んできたと思ってるんちゃいますか?
そんな事を内心思いながらもご主人様からケーキを受け取る市丸ギン。
ちっと舌打ちをして部屋から出ようとした
お腹を空かせているジョーの前に立ちはだかったのはウルキオラ。
エプロン姿で大きなスプーンと大きなボールを手にしている。
「そんなに腹が減っているのか?」
「んだよ、いきなり現れんじゃねーよ」
「そんなに腹が減っているなら食わせてやろう」
「はぁ?」
「お前が抓み食いをしたこのクリーム、最後まで食って貰うぞ」
「な・・・ 何言ってんだよ・・・」
後退りをするジョー。
そしてじりじりとジョーを追い詰めるウルキオラ。
突然ダッシュするジョーとそれを追うウルキオラ。
「ギン・・・」
「はい?」
「出前はお寿司にしようか?」
「そうですね・・・」
スンスンお嬢様のために料理をしていたウルキオラ。
だが、人に抓み食いをされると許せないその性格。
抓み食いされたものは人には出せないと・・・
そして、最初から作り直すのがウルキオラの信じる料理の道。
それを知っているご主人様と市丸ギンも・・・
実はお腹が空いていたようであった。
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